【特集】萩の料理人「懐石料理 あじろ」 田中 利隆さん

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萩城下町の一角にお店を構えて16年。「懐石料理 あじろ」の田中 利隆さんにお話をお伺いしました。

ご出身はどちらですか?

1945年12月8日に萩市大井村(現 大井地区)で生まれて高校卒業まで過ごしました。

高校卒業後はどちらで過ごされたのですか?

高校は機械科に進学していたので、大阪にあるプラント機器の会社に就職して、圧力容器の設計に携わる仕事を7、8年していました。

どのようなきっかけで料理人を志そうと思われましたか?

萩市が、ディスカバージャパンやアンノン族※のような、雑誌の影響から脚光を浴びた時期があり、そのタイミングで兄が民宿をはじめることになりました。その時に、誘いを受けて料理を担当することになったので、大阪から萩市へ戻りました。子供の頃は、釣りに行ったりすると、釣った魚は自分で捌くものでした。独学ですが、焼いたり、刺身にしたり、煮つけにしたり海の物ならお手のものでした。当初はお客様に活き造りなどをご提供して、それがとても好評でした。

 

※アンノン族…1970年代中期から1980年代にかけて、ファッション雑誌やガイドブックを片手に一人旅や少人数で旅行する若い女性を指した、旅行の主役として女性客が重視される最初の契機となった現象。

 ご自身のお店を持つこととなったきっかけを教えてください。

民宿をはじめた頃のような、1次的な流行はいつか終わります。流行が終わったくらいに、料理で店を持つなら懐石料理をやりたいと思ってオープンしました。でも、もう子供もいて家族を養っていかないといけない状況だったので、大きなお金を借りてはじめた時は、とても不安で怖かったのをよく覚えています。資金もなく、海の物とも山の物ともつかぬ者が、新しいことをはじめるのですから、中途半端なことは一切なく命をかけて必死でやりました。オープン当時は、生活のことも考えて500円くらいの料理も出していました。でも、自分の思い描く懐石料理のお店を貫くなら、その価格帯の料理はやめるべきだと考えるようになり、それでもやめるのに3年くらいはかかりました。

そのお店が現在の「あじろ」ですか?

このお店は3軒目になります。1目はオープンして8年間営業しました。その店舗を建て替えたのが2目です。そこを16年営業した後、もっと店舗を大きくしたいと思い、現在の場所に移ってきました。カウンターの檜は、岐阜から取り寄せるなどこだわりを持って作ったお店です。「あじろ」はオープンして16年目になります。

店名「あじろ」の由来を教えてください。

漁師言葉で「あじろ」とは、魚が釣れる場所のことなんです。3文字で語呂も良かったので「あじろ」に決めました。

書が素敵ですね。

この書は、三輪龍氣生先生※が100枚くらい書かれた中から選ばれた、とても貴重な1枚です。それに額に入っている文字は枠からはみ出ていますが、印鑑の文字は枠に収まるように書かれています。これは印鑑として使えるようにするための先生の細やかな気配りです。

※三輪龍氣生(みわりゅうきしょう)先生…本名:龍作、十二代休雪は、1940年に江戸時代から続く萩焼の名門陶家に生まれる。茶の湯の世界で親しまれる萩焼の伝統に立脚するよりも、やきもので自己を表現するために既存の概念にとらわれない自由な制作を求め、その時々の心情を形にする陶芸家。

食材に対するこだわりはありますか?

素材の味を大切にすることです。その素材が持っている味を、上手に引き出すことが大切だと思います。例えば、つい先日の話ですが、自分の畑で採れた茄子を、そのままレンジで5分加熱調理しました。中がトロトロに柔らかくなり、そこに醤油をタラりとかけるだけで本当に美味いです。それと良い素材を使うというところにもこだわっています。料理は出汁が基本です。「あじろ」では、素材を活かすために日本で1番と言われている羅臼昆布を使っています。ジュンサイのような萩市では手に入らない食材は取り寄せていますが、大根なら千石台のように、なるべく萩産の食材を使っています。今の時期は天然の鮎を使うのですが、阿武川の明木川で1本釣りで獲れた鮎です。他には赤水(キジハタ)、瀬付きアジ、ヒラメ、鮑、ウニがお勧めの食材です。子供の頃は、夏になるとウニを獲って食べていました。その中に赤ウニによく似ているけど、とげの白いウニがいて、それが格別に美味しかったんですが、当時でも年に1回か2回くらいしか獲れなかった。今はもう獲れないんでしょうね。

お料理を盛る器にもこだわりがありますか?

萩焼は十二代三輪休雪、坂高麗左衛門窯、大屋窯などの器を使っています。それ以外に京焼や輪島塗の器なども使っています。輪島塗は金継ぎをしてくれるから何度も使えて良いです。それから、たまげ茄子専用の器…というように、料理に合わせて購入した器もあります。器を見て「この器にどのような料理を合わせるか」を考えています。その時が楽しいです。お客様が椀物の器を使用する料理コースを頼んでくれると嬉しくなります。椀物は料理の花形なんですよ。昔から椀物と刺身は料理の命と言われています。やっぱり見た目はとても大事です。お客様に驚きや感動を含めてお料理を楽しんで頂けることを常に思って作っています。味を追求するだけではなく、どうすれば素材の良さを最大限に生かせるか?を工夫しています。例えば、鮎を焼く時に、火に笹を入れてから、そこに青竹を置いて鮎を載せて焼くと笹の香りと一緒に味わうことができます。また、蓮の葉に熱々の具材を載せることで高貴な香りを出すことができます。このように、料理は味も見た目も大事ですが同じように香りも大事です。

民宿から今の業態になる時、どのように料理を学ばれたのですか?

料理に対して興味のあった福岡県のとあるお店へ足繁く通いました。はじめて食べた時に「料理とはこう言うものだ」とガツンと一喝入れられたような衝撃を覚えたので、そちらの味や料理法を覚えるまで通いました。同じ料理を再現しようとして、なかなかできなかった時もありましたが、いよいよ資金がなくなった頃にやっと完成して嬉しかったです。その他では、三輪龍氣生先生に教えて頂いた東京の「すきやばし次郎」や大阪の「本湖月」など今では星が付いているお店に食べに行って研究しました。今は店内で気軽に写真を撮ったりできますが、昔はそうではなかったので頭に叩き込んで、帰ってから試作することを繰り返していました。他には、東京にある京料理店「京味」の西健一郎さん、京都にある司菜「緒方」などの技術を独学で勉強しました。一流の先生方のやっていることを教材にして真似から入り自分の形を作ってきました。はじめのうちは意図していることがなかなかわかりませんでしたが、徐々に「なるほど」と府に落ち、モノの見方などがわかってきました。料理を組み立てる際に、前職で設計に携わっていた経験も活かされていると思います。基本的な調理法はシンプルです。例えば、野菜を炊いた料理を作るとしたら、食べた瞬間に舌で味を感じやすい「野菜を最初から味付けて炊く」方法か、奥深さを感じて上品に仕上がる「出汁だけで炊いて後から味付けをする」のどちらかで、どのような調理法を選ぶのかはお店次第です。

大将にとって、おふくろの味はどんな料理ですか?

父親が漁師だったので、母親は朝獲れた魚を市場へ持って行き、その後も夏みかんの仕事をしたり、とても忙しく働いていたので、時間をかけてゆっくり作る料理はしなかったと思います。つい先日、外出先で頂いたインゲンの煮物が、母親が良く作ってくれていた「青豆」と呼んでいた料理の味にとても似ていて懐かしく思いました。

+Photos+ 萩市地域おこし協力隊 上田 晃司

美味しい魚の選び方を教えてください。

一般の人が見極めるにはとても難しいことですが、一番良いのは網よりも釣りで獲ったものです。競り場に行くと漁師の名前がついていたり、釣りでしかしない処理をされているので、網か釣りかがわかります。魚は活きが良いまま早く締めると鮮度が保たれます。

オープンされてから、これまでに印象的な出来事はありましたか?

突然VIPのお客様が来られた時に、急だったので料理を作るのが大変な時がありました。その日に使える食材の中から、イチジクが旬を迎えていたので焼いて味噌をつけてお出ししたところ「僕はこういう料理が本当に好きなんです。凝った料理は沢山食べて来たが、こんな素朴で美味しい料理が食べられて嬉しい。」と言ってくださいました。お金をたくさん持たれているからと言って、贅沢なものや凝った料理を好まれるわけではないことを教えて頂きました。

お休みの日はどう過ごされていますか?

今は毎週火曜日の夜と、水曜日を定休日にしています。普段は妻も私も働き詰めなので、休日はゆっくりして過ごしています。大体はビールを飲みながらTVを観たり、家庭菜園をしています。夜は見蘭牛などの良い肉を買って来てステーキやしゃぶしゃぶを食べたりします。

お客様にお伝えしたいことはありますか?

「あじろ」のどの料理を選ばれても、ベストを尽くしてお客様一人ひとりに喜んで頂けるようにしています。

 

料理をはじめ、店内の空間や器から萩城下町を感じられる「懐石料理 あじろ」、大将田中さんの作られる料理は「萩の味」として、お客様の心を一瞬にして掴む魅力があります。誰にもまねのできない本物を是非ご賞味ください。

 

あじろ