萩のつくり手 <第30回>
「まひろファーム」國貞 正信(くにさだ まさのぶ)さん
人気シリーズ「萩のつくり手」も第30回を迎えました。
夫婦の名前「正信(まさのぶ)」と「千尋(ちひろ)」を組み合わせて「まひろファーム」。ステキな屋号の由来をもつ「まひろファーム」の國貞さんご夫妻は、ビニールハウスで、ナスやキュウリ、イタリア野菜を生産されています。萩市福栄地域の田んぼや畑が広がる美しい農村風景のなか、人なつっこい猫たちが走り回る「まひろファーム」の畑で、國貞さんご夫婦にお話を伺いました。
―出身はどちらですか?
萩市椿です。高校卒業まで萩市に住んでいました。両親は農家ではなく普通のサラリーマンでした。
―農業はいつからやっていますか?
10年ほど前からやっています。きっかけは、原因不明の体調不良に苦しんでいた父を宇部市の病院まで連れていって看病する必要があり、それまでの仕事を辞めたことです。近所に住んでいた幼なじみが米農家をやっていたので、父の看病のかたわら空いた時間に農業を手伝ったことが始まりです。2年間ほど幼なじみの手伝いをしました。その後、父は亡くなり、思い切って、自分で農業を始めることにしました。
―どのような子ども時代を過ごされたのですか?
小学校は椿西(ちんぜい)小学校に通っていて、度を超えたやんちゃな子どもでした。2年生か3年生のときには、授業中、勝手に学校の外に出て行ってカブトムシを探したこともあるし、野良猫と遊んでいたこともありました。担任の先生の手に負えず、一番厳しい先生が受け持つ6年生の授業に出なさいと言われてしまいました。普通はそれを間に受けたりはしないのでしょうが、自分は「教科書が違うと思うのですが、どうしたらいいですか?」なんて言って、本当に6年生のクラスに混ざって授業を受けました。そんな子どもでした。
それと、小学生の頃はスポーツ少年で野球をしていました。でも、途中から目が悪くなって、ボールが見えなくなり、フェードアウトしてしまいました。子ども心にメガネをかけるのが嫌だったという記憶があります。
―中学校時代に部活など、何か取り組んだことはありますか?
中学校は今の萩東中学校になる前の萩第一中学校に通っていて、部活はハンドボール部に入りました。先ほどの話の6年生に混じって授業を受けたときに、体育でポートボールをやったのが楽しくて、それに近いスポーツを選びました。そしたら自分の学年の部員数が少なく、試合に出るには7人必要なのに3人しかいなくて。その3人も転校したり、別の部活に変わったりして、最終的には学年で自分1人になってしまいました。3年生で必然的にキャプテンになったのですが、今度は顧問の先生が異動になってしまい、先生不在で後輩に教えるという部活の日々でした。
あと、中学時代から新聞配達のアルバイトをしていました。朝は4時起き。100軒以上に新聞を配るので、自転車の前も後ろもパンパンに積んで配達していました。今も朝4時起きで仕事をしていますが、それが苦にならないのは、この時の経験があったからかもしれません。
―中学校卒業後は、どのような道に進まれたのですか?
阿武町の奈古(なご)高校(現・萩高校奈古分校)に進学しました。ただ、農業系ではなくて、流通を専門に学ぶ科でした。それで、流通を学びながら、萩のスーパーでアルバイトして、長期休みはほとんどの時間バイトしていました。それと、高校の3年間、柔道部に入っていて、2段まで取りました。
高校卒業後は、スーパーに就職しました。転勤が多く、香川や岡山、島根など、あちこちで勤務しました。働いていたスーパーが不景気の煽りを受けて倒産し、転職も経験しました。30代前半まではスーパーで働いていたのですが、若かったので、がむしゃらに働き、体調を崩してしまいました。それで、山口県に戻ってきて、当時インターネットがどんどん普及していたので、職業訓練校でパソコンのスキルをつけ資格も取りました。その後は、飲料メーカーに入社し、スーパーや病院や温泉を相手に、営業や配達の仕事をしました。そのうちに、父が倒れ、看病のために会社を辞めて、幼なじみの農業を手伝ったあと新規就農しました。
―パートナーの千尋さんとは、いつ知り合い、お二人で農業をすることになったのでしょうか?
10年ほど前に共通の知人を通して知り合いました。年齢は20歳差です。
8年前に新規就農して、中津江(なかつえ)で露地野菜を栽培する指導農家のもとで研修を続けるうちに、やはりビニールハウスで栽培したいと考えるようになりました。それで、研修で出会った方に相談したら、ビニールハウスを借りられるように、人を紹介してくださって、福栄のハウスにご縁をいただきました。
―千尋さんが、農業を始めたきっかけは何ですか?
私は、子どもの頃は椿西(ちんぜい)小学校に通っていたのですが、「田んぼの会」というものがあり、稲刈りなどを経験しました。中学校は萩東中学校で高校は長門高校に通い、高校卒業後は、萩市の介護施設や子どもの障害者施設で働きました。
小学校での農業体験をきっかけに、農業にも興味があったので、仕事が休みの日には少しずつ手伝うようになって、その後は仕事を辞めて農業に専念するようになりました。
―生産している食材とその特徴を教えてください。
メインは、ナスとキュウリです。この2つは、収穫量、品質、おいしさの点で、萩で一番を目指しています。ナスは露地栽培のものも多いですが、それだと、どうしても傷がつき、品質が落ちてしまいます。でも、ハウス栽培では、雨や風を防げるので、多すぎる雨で肥料が流れ出てしまうこともなく、効率よく吸収できます。野菜には少しのストレスを与えると、子孫を残そうと実をたくさんつけて、おいしくなるのですが、ハウスでは、ちょうどいいストレス管理の正解が見えてきます。
最近は、八百屋さんからキュウリの指名買いをしてもらえるようになりました。ハウス栽培によって、青臭さの原因となる農薬や化学肥料を減らせて、野菜嫌いの子どもでもおいしく食べられるような「青臭さのないキュウリ」が出来上がったためです。年々、ちょっとずつ、その味を評価してもらえるようになりました。
ナスについては、ステーキ用のナスとして販売している「イタリアナス」は、昨年の2倍くらい売れるようになりました。市内のイタリア料理店でも使ってもらっています。
―こだわりや大切にしていることは何ですか?
仕事においては、「せっかく作るなら一番になろう」という志を大切にしています。農業は仕事時間も長く、きついことも多いですが、この志がやる気を支えてくれています。最近は、直売所に納品していると、野菜を待っているお客さんが寄ってきてくれます。この志の結果が出た瞬間だと思います。
去年までは、たくさん作ったものを、周南や下松まで売りに行っていましたが、今年は販路に困ることなく、地元で全部買っていただけるようになり、むしろ足りないくらいになってきました。
―これからチャレンジしてみたいことは何ですか?
今は、経営的には先行投資した機械や設備の返済をしている状態で、がんばりどきなのですが、それが終わったら人を雇うことができます。人を雇うと可能性が増えるし、仕事とプライベートのバランスも取りやすくなります。そしたら、珍しい野菜の栽培にもチャレンジしたいです。
―ハウスの栽培技術に関しては、どうやって習得したのでしょうか?
苗はプロが作ったもので育てるのが一番だと思っているので、信頼のおける種苗会社から仕入れていますが、種苗会社の人が栽培方法について指導してくれることもあります。あとは、ちょっとマニアックなYouTubeチャンネルを見て研究しています。
―一年間の流れはどのような感じですか?
4月からキュウリやナスを植えて、夏にたくさん採れるので、がむしゃらに働いて、一気に稼ぎます。それを10月ぐらいまで。10月以降は、少量多品種で、カブや葉物類。3月になると全て収穫し終わり、2週間かけて土作りをします。その2週間でビニールハウスを閉めきって、土の病原菌を熱で殺菌します。その期間に旅行してリフレッシュしたいと思っています。
―1日の仕事の流れはどのような感じですか?
夏は4時に起き、水やりしながら収穫。収穫が終わったら袋詰めをして、午前中はずっと配達します。うちは、朝採りにこだわっていて、前日に収穫したものではなく、当日の朝収穫したものを持っていくので、店頭に並ぶ時間が遅くなってしまいます。それでも、待っていてくれるお客さまがいます。昼は2〜3時間休憩し、涼しくなってから仕事再開。夕方、暗くなる7時半くらいまで作業します。
―大変なところはどのようなところですか?
作業時間が長いことですね。あと、地味で単調な同じ作業が続くと飽きてしまうことです。
―農業の魅力、やりがいは何ですか?
直売所にキュウリの配達に行くと、待っていたお客さまが自分たちを囲んでくれて「待っちょったよ」と声をかけてくれることがあります。形が曲がったキュウリでも、おいしいからと買ってもらえます。そういう時は、やりがいを感じます。
―これから農業を始める方へのメッセージをお願いします。
自分の経験から思うことは、できるだけたくさんの農業の先輩に話を聞いてから、始めるのがよいと思います。そうすることで、視野を広く持って、理想と現実のギャップが埋まる方法を見つけていけるのではないでしょうか。
貴重なお話ありがとうございました。笑顔あふれるご夫妻が美味しいの笑顔をつくる「まひろファーム」さんのさらなるご活躍を期待しています!
基本情報
会社名又は個人名 | まひろファーム |
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住所 | 萩市福栄 |
電話番号 | |
URL | https://www.instagram.com/mahirofarm.8823/ |
販売場所 | ふれあいらんど萩(ファーマーズマーケット)、アトラス萩、キヌヤ、道の駅ハピネス福栄、道の駅たまがわ、道の駅阿武町、農産加工直売所つつじ、はぎマルシェに(年に4、5回) |