萩のつくり手 <第10回>
千石台(せんごくだい)のスイカ栽培 「みつい農園」 光井 優(みつい ゆう)さん
自然豊かな恵まれた大地「千石台」で愛情を込めて栽培されたみつい農園さんのスイカが、もうすぐ出荷を迎えます。
人気シリーズ「萩のつくり手」第10回を迎える今回は、千石台でスイカ栽培を行う光井 優さん。
保育士からの新規就農へ、といった経験をお持ちの光井さんは、2年間の研修を経て独立されました。チャーミングで真面目で、何よりも家族第一のイクメンな農家さんです。「千石台のスイカがどこよりも美味しい」とおっしゃる光井さんに、その美味しさの秘密を伺いました。
ご出身はどちらですか?
大阪府高槻市で生まれて、祖母のいる岡山県美咲町に移り、高校卒業までいました。その後、東大阪市に進学して、保育士を3年間した後、7年前に千石台に来ました。
学生時代の部活動はなにをされていましたか?
中学は部活で卓球部、クラブでサッカーをしていました。同じ中学校で卓球部だった同級生2名が、僕が学力で特待生として入学していた美作高校(岡山県)に、卓球の特待生として進学していました。でも、僕は卓球の特待生で入学した同級生の1人よりも卓球の成績が良かったので、迷わず僕も卓球部に入部したのですが、2年生になった時に突然先輩から「キャプテンになれ」と言われて…。卓球は好きだったのですが、キャプテンという立場は向いてないと思い、顧問に退部届を出しました。その後は、当時5人しかいなかったサッカー部に入りました。5人だけでは何もできないので、周囲に声をかけて、試合ができる人数まで集めました。サッカーに向いてない人にも入ってもらって、何とか人数だけは揃えて大会に参加したのですが、強豪である作陽高校(岡山県)に32対0で負けましたよ。僕は、試合当日は3週間ほどオーストラリアに語学留学していた時期だったので、日本にはおらず試合には出ていません。もし、僕が試合に出ていたら勝てたかもしれません(笑)
保育士になった理由を教えてください。
子どもが好きだったので、中学1年生の時に保育士なることを決めて、岡山県美作高校から岡山県美作大学幼児教育学部に入学するプランをたてました。高校進学時に、特待生で進学できたら、公立高校へ入学することを両親と約束をし、一生懸命勉強して特待生になって進学しました。入学して最初のテストで、自分の学力を知るために勉強をせずに受けたら、ちょうど真ん中でした。このままでいいかなと思ったので、次のテストも勉強せずに受けたら、下から2番目でした。そこでさすがに焦って、その後はまじめに勉強をしました。その努力が実り、大学受験の時は特別進学クラスだったので、優先的に希望の大学の推薦枠を取れる立場でした。でも、自分よりも勉強を頑張っていた普通科の子が、僕が希望していた美作大学を希望していて、申し訳ない気持ちになりました。結局、美作大学よりも合格発表が早かった別の大学に入学することにしました。
保育士の仕事は楽しかったですか?
楽しかったです。就職を決めた1番の理由が、面接のときに「ピアノは弾ける人が引いたらいい」と言ってもらえたからです。僕はピアノが弾けなかったので、働かせて頂けるだけでもありがたいのに、何て優しいのだろうと感動したのですが、結局、就職してすぐピアノを弾くようにうまく導かれました。(笑)園歌だけは最後まで弾けませんでしたけど。
なぜ保育士を辞めて農家になることを選ばれたのですか?
就職したところは、1族経営だったから、園長にはなりにくいことや、どこかで自分でお金を稼ぎたい気持ちがありました。子どもが小さい時であれば、何かに挑戦して仮に失敗しても、軌道修正が可能だと思ったので、違う道へ進む決断をしました。農家を選んだ理由は、農業が好きだからではなくて、起業したい気持ちが強かったからです。義父が専業農家で生活していたので、そのノウハウを教えてもらいながら挑戦できると、リスクも最小限にすることができると思ったからです。農業は、実家で家族が食べる米を作っていました。それでも、子どものころは手伝いはしてませんでした。今は兄が地元で葡萄栽培と、田んぼで大豆を栽培しています。
保育士を辞めて農家になることに対してご家族はどんな反応でしたか?
最初はみんなに反対されました。父親からは「大学4年間行って農業か」と言われて、義父からも初めは「やめておけ」と言われました。それでもやりたい気持ちを伝え続けたら、理解を得ることができました。
地元から離れて千石台に移住されましたが、何か違いを感じることはありますか?
僕の実家も、最近やっと近くにコンビニができたくらいで、それまではコンビニまで自転車で1時間もかかかるような場所で、しかもバスも1時間に1本しかありませんでした。なので、千石台を特に田舎だとかは思わなかったし、違いは感じません。
農業は何年目になりますか?
就農して5年目です。最初は2年間の研修で1か月に1回大学に通いながら、1年間は見て覚えて、2年目に1畝※ほど管理を任されて、3年目に義父とは別経営で独立しました。今、栽培しているのはスイカ以外でニンジン、キャベツ、小松菜、カブなどです。大根は義父が栽培しているのでそれを手伝っています。
※日本における1畝(ひとせ)とは、99.174~(約99㎡)です。1畝=30坪となります。この値は1アール(100㎡)と非常に近いため、農業現場ではざっくりと1畝(ひとせ)の事を1アール(1a)として計算しています。
農業をはじめて何が一番大変でしたか?
千石台では大根の鮮度保持のために収穫を0時からおこなっていました。そのため、特に1年目は生活リズムに慣れるのが大変でした。(現在は19時になっている。)その収穫時期は、朝7時までに起きて子どものことをしてから、自分の農園の仕事をします。そして、お昼に仮眠を2時間くらいとってまた仕事をして、夕方ごろから家族と過ごして22時くらいに仮眠して0時から大根の収穫を手伝います。それが終わるのが大体4時ぐらいで、そこから朝7時くらいまで寝るような生活でした。だから、最初はその時期は寝ている感覚がなく大変でした。それでも、農家になってから1回も辞めたいと思ったことはありません。もちろん体がしんどいとかめんどくさいとか思ったことはあります。農業を何も知らないところからはじめたので、ひとつ良いものができるだけで嬉しいです!新しいことに挑戦できることが本当に楽しいです。
みつい農園のロゴがとても可愛いですね!どなたがデザインしたものですか?
これは、奥さんの友達にデザイン制作してもらいました。3つの候補があったのですが、みんなひと目でこのデザインが気に入りました。ロゴには、僕の子供の名前でもある”心”という文字がデザインされています。「良い心を持って育って欲しい」という願いを込めていて、ロゴにもそれと同じ想いがあります。生産物にロゴシールを貼ることで、みつい農園をもっと世の中に浸透させたいという思いもあります。
「スイカをベランダで栽培」に挑戦されていることをお伺いしましたがその経緯を教えてください。
かりゆしすいか農園(沖縄県国頭郡今帰仁村)が、インスタグラムのフォロワーと考えた企画「ベランダでスイカ栽培」にインスタグラムで繋がっていたことから、山口県スイカ農家プロ代表の依頼を受けてベランダ栽培をはじめました。マンションでもスイカが栽培できるをコンセプトに始まった企画です。
スイカ栽培で工夫されていることはありますか?
スイカを栽培する場所とは別に麦を栽培して敷き藁にしています。麦は稲藁よりも通気性や保湿性が良いと思っています。別の場所で育てるのはスイカにできるだけ多くの必要な栄養を与えるためです。それにつるが良く伸びるように、おそらく他よりも畝と畝の間隔にゆとりがある栽培の仕方だと思います。贅沢な栽培方法になっています。
千石台では以前からスイカの栽培をされていたのですか?
いつからスイカ栽培をはじめたのかまではわかりませんが、移住してきた7年前には栽培していました。義父も作っていたので、それなりに昔からしていると思います。スイカ以外にもメロンをハウス栽培していたようです。
スイカの品種を教えてください。
今に至るまで様々な品種を試してきて、現在は「星きらら」を栽培しています。特徴としては、大玉でシャリ感も良く糖度は平均13度くらいです。県内では相島(あいしま)・福賀(ふくが)のスイカが有名ですが、千石台も負けない美味しさがあります。また、今年からみつい農園ではスイカ400株のうち48株ほど「3Xブラックジャック」という品種の栽培もはじめました。
千石台のスイカ栽培の特徴を教えてください。
スイカだけではないですが、千石台の栽培の特徴は自然の力を利用しているところです。水は水源がないため降雨に頼り、果菜類の受粉も自然界の蜜蜂がおこなっています。また、土壌改良はおこなっていますが、千石台の土壌は黒ボク土と呼ばれていて保水性、通気性などが良いとされています。気候も寒暖差が大きいため野菜の味がしっかりとつきます。だから、萩市の中で一番良い自然条件が千石台にあると思います!
※黒ボク土は、溶岩が噴出した玄武岩の台地で、その土は水はけの良いきめ細やかな黒色火山灰土。特徴としては通気性、排水性がよく、その一方で保水性にも優れている。手に取ると「サラサラ」として指の隙間から溢れる落ちることから土のきめ細かさがよくわかる。
みつい農園のスイカや野菜はどこで購入できますか?
現在、僕の野菜が購入できるのはファーマーズマーケット、キヌヤ、つつじです。スイカは7月下旬から出始める予定ですが、今年は遅れる可能性があります。スイカはメロンのように追熟がないため、収穫直後から鮮度が落ちていきます。冷やして食べるより常温の方が甘みを感じられると思います。
スイカを栽培したい人へアドバイスを頂けますか?
僕がまだ初心者なので、スイカ農家を目指す人に言えることはないですが、同じ栽培方法なら情報を交換できるかもしれません。それに栽培される環境によって生育状況が異なるし、これからもいろいろな産地を見て学びたいので、逆にアドバイスを頂きたいです。
農業を目指したい子どもたちに伝えたことはありますか?
子どもたちには「農家は楽しい!」と伝えたい。また、家族が1番だから、家族の時間を自分次第で作れることも、農業のいいところです。
将来の夢を教えてください。
スイカのことで言えば、TVで紹介されていたスイカマニアの佐藤さんが立ち上げたブランドスイカ専門店「あまいスイカ」で取り扱いをされることが目標です。それと、やはり自分で作ったものは、自分で販路を作り販売できるようになりたいです。それが千石台という産地を守ることにつながると思っています。
大自然の中で力強く育つ「千石台のスイカ」、その大地のパワーと栄養がたっぷり詰まったスイカを是非ご賞味ください!
基本情報
会社名又は個人名 | みつい農園 |
---|---|
住所 | 〒758-0304 山口県萩市大字吉部上2137-37 |
電話番号 | 080-5624-6999 |
URL | https://www.instagram.com/mitsuinouenn |
販売場所 | ファーマーズマーケットふれあいらんど萩、キヌヤ、道の駅つつじ |