萩のつくり手 <第25回>
「水谷牧場」水谷 信義(みずたに のぶよし)さん、香葉(かよ)さん

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山口県民なら誰もが目にしたことのある牛のマーク「ベルちゃん」でおなじみの「やまぐち県酪」。県内最大の乳業メーカーで、県内の学校給食の牛乳も担当します。そんな「やまぐち県酪」の牛乳を毎日4トン出荷しているのが水谷牧場です。自然豊かな萩市木間(こま)地区の澄んだ空気が心地よい水谷牧場で、代表・水谷 信義さん、香葉さんご夫妻にお話を伺いました。


△やまぐち県酪のイメージキャラクター「ベルちゃん」

-水谷牧場、創業の経緯を教えてください。

木間のこの場所は、補助事業で建てられた施設です。最初は他の方が入られる予定でした。ですが、その方がご病気になられたので、この場所を運営する人を探しているという状態でした。私自身は、長門で父の酪農を継ぐ予定でいたのですが、広い土地を探していたこともあって、私がここで酪農をすることに決まったのです。

 

-信義さんの出身はどちらですか? どのような子ども時代を過ごされたのでしょう?

出身は、長門市です。私の実家は、長門で祖父の代から始めており、父の代でより力を入れて本格的になりました。子どもの頃から父の手伝いをしていて、自分も酪農をしたいとずっと思ってきました。

高校は、農業高校に行くのも考えましたが、他のことも学びたいと思い、長門市の大津(おおつ)高校(現・ 大津緑洋(りょくよう)高校)へ行きました。部活は、中学校では剣道部、高校では弓道部に入っていました。
大学は、家がキリスト教だったので、兵庫県にある関西学院大学の神学部に進みました。牧師になる資格を持っています。神学部では教会の日曜学校で活動するのですが、その時に妻と出会いました。

 

―大学卒業後は、どうされましたか?

父の酪農は規模も小さかったので、別のやり方を学ぶため、岡山県の大きな牧場で1年間ほど研修をして、2002年、27歳のときに木間のこの牧場へ移りました。

 

―2002年に萩に来られた時、印象はどうでしたか?

最初は、夜の静けさに驚きました。
今は、引っ越してきたときより、萩のまちの雰囲気がどんどんよくなってきて、活気が出てきたと感じます。

 

―水谷牧場で生産しているものの特徴は?

毎日4トンの牛乳をやまぐち県酪に全量出荷しています。やまぐち県酪の牛乳は、身内びいきかもしれませんが、どこよりもおいしいと思います。雌牛は、ミルクを絞るために1年に1回は出産をするのですが、ホルスタインの雌に、見島の天然記念物の純血牛「見島牛」の種付けをして、「見蘭牛」となる子牛を出産し、お隣の見蘭牧場へと引き取っていただいています。それから、肉牛となる仔牛も出荷しています。

 

―牛乳のおいしさの秘訣はなんですか?

水がきれいなところで、栄養価の高い餌をおなかいっぱい食べていることでしょうか。エサは、飼料と国産の
稲藁を食べています。また、製造過程でおいしさを逃さないような工夫があります。

やまぐち県酪は、出荷にとても厳しい基準があります。例えば、出荷する牛乳に水が少しでも混ざったら出荷することはできません。他にも、病気になった牛を治療するのに使う抗生物質などの薬が一滴でも入ることがあれば、全て廃棄になります。ですので、健康な状態の牛の乳しか出荷しません。そして、出荷時には多項目にわたる成分分析をしていて、栄養価が高ければ、高値で買取ってもらえるなどの仕組みがあります。
酪農家は皆、神経を尖らせて徹底した品質管理をしています。

 

―やまぐち県酪には、何軒の酪農家がいらっしゃるのでしょうか?

今は、40軒程度です。以前は、100軒程度いました。
ニュースにもなっていますが、酪農家の現状は、厳しい状況にあります。

 

―大変なことは、何ですか?

山口県は、まとまった広大な土地があるわけではないので、エサの自給が難しいところです。エサは、購入飼料と稲藁なのですが、購入飼料は、輸入もので、現在、円安や戦争などの影響で価格が高騰しており、酪農家の 利益が非常に少ないという点で、今、大変な状況にあります。ガソリン代、電気代、資材など全ての経費は全部上がっています。それに伴い、牛乳も少し値上がりしてしまいましたが、それでも、全然まかなえないのが現状です。酪農の需給バランスの問題などは、国の政策に大きく影響されるので、今後の国の政策に期待したいです。

 

-水谷牧場では、何頭の牛を飼育しているのでしょうか?

今、この牧場には180頭の牛がいます。ほかに、北海道と美祢市にある「牛の保育園」のような場所に70頭の牛を預けています。

 

―水谷牧場では、何人が働いていますか?

私たち夫婦、87歳と80歳の両親、姉夫婦、正社員1名、パート2名の9人で運営しています。

 

―酪農といえば、北海道で酪農、畑作を営む農家に生まれ、自身も農業に従事していた漫画家・荒川 弘(あらかわ ひろむ)さんの酪農家事情が綴られたコミックエッセイ『百姓貴族』が印象深いです。

おもしろいですよね。コミックエッセイの内容は、そのまんまというか、酪農家の暮らしのなかで、共感できるところがたくさんあります。

 

―『百姓貴族』のなかで、搾りたての牛乳の味が全然違うという内容を読み、飲んでみたいなと思っていました。

水谷牧場では、みんな毎朝飲んでいますよ。飲んでみますか?

 

―おいしいです! スッキリしているのに甘くて。後味がすごくいいですね。いつまでも口の中にさわやかな甘味が残っています。

出産後1週間以内の初乳は、脂肪分が多く栄養があります。少しお酢を加えると、カッテージチーズも簡単にできますよ。とてもおいしいです。


(注)牛乳は、加熱殺菌してから飲んでいます。今回は、特別に試飲させていただきました。

 

―香葉さんは、「やまぐち農林漁業ステキ女子」に入られていますね。どんな活動をしているのですか?

「ステキ女子」は、山口県内の農業・漁業・林業に関わる女性のグループです。
農業の良さを広めることを目的に活動していて、研修会やマルシェなどをやっています。酪農関係者もいるので、情報交換や息抜きの場にもなります。
ステキ女子の活動の様子は、Facebookページで見ることができます。
⇒Facebook/やまぐち農林漁業ステキ女子

 

―1日の流れ、1年間の流れは、どんな感じですか?

朝の5時ごろから、昨日のエサの残りを確認してエサを移動させて、食べさせます。その後搾乳。9時ごろまでかかります。10時ごろまでに、あと片付けをしたら、牛の体調を確認し、体調が悪い牛は獣医さんに診てもらいます。それからフンを取り除く作業や牛の寝床の調整。夕方からまた搾乳という感じで1日が終わります。
エサやりは全て機械でやっています。
年間の流れとしては、秋と冬だけ、契約している田畑に堆肥をまく作業があります。酪農は繁忙期がなく、1年を通して、やることは、ほとんど変わりません。酪農を20年以上やっていて、これまで育てた子牛は1000頭超えています。それでも、うまくいかないことも起こりますし、生き物を育てることは難しいなと感じますね。
人間のためにがんばってくれている牛たちに、この牧場にいる間は、健やかに過ごして欲しいという気持ちでいます。

 

―これからチャレンジしたいことは何ですか?

やはり、エサ代にかかるコストが大変な課題なので、簡単なことではありませんが、飼料の自給がなんとかしてできないかと考えています。それから、六次産業化していくことについても考えています。やまぐち県酪に出荷する阿武町の牧場の仲間と、コロナ禍になる少し前に、ソフトクリームの機械を導入し、イベントなどで提供したいと計画していたのですが、残念ながら直後にコロナ禍に突入してしまい、全く活用できませんでした。これからは、活用していきたいですね。

 

―これから酪農をしたい人へのメッセージは?

酪農は機械や設備にお金がかかることもあり、収益性の点では、きびしい仕事です。いろいろな牧場があるので、自分に合うやり方をよく調べ、しっかり勉強してから始めるのがいいと思います。

水谷牧場では、現在、働き手を大募集しています。水谷牧場は、人間関係がとても良好で、働きやすい職場だと思います。少し意外かもしれませんが、女性の活躍が目立っています。現在は、農業大学校を卒業して新卒で 入社して3年目の若い女性が正社員として活躍してくれています。大型機械の操作も難なくこなしていますよ。ほかにも、牛が好きな女性が働いていて、細やかなケアをしてくれています。牛の様子によく気がつくという点で、女性に向いている仕事も多いのかもしれません。

動物が好きな方、自然豊かな環境で働きたい方は、是非、見学に来てください。酪農の仕事は、牛に触れ合う 機会は多いです。もちろん、ペットではありませんので、最終的には、肉として食べられるわけですが、牛は 好奇心旺盛で、人なつっこくて、かわいいですよ。

―毎日美味しい牛乳を飲むことができるのは、徹底して品質管理を行う水谷牧場のおかげですね。
 これからもがんばってください!

基本情報

会社名又は個人名 水谷牧場
住所 〒758-0063 山口県萩市山田737-3
電話番号 0838-27-0015
URL https://www.facebook.com/yamaguchi.nouringyogyou.sutekijoshi
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