萩のつくり手 <第33回>
「定置網漁業」① 高嶋 大輔(たかしま だいすけ)さん
山口県漁協越ケ浜(こしがはま)支店定置部で漁師として働き始めて7年目を迎える高嶋大輔さん。現在は船長を務めています。漁業にはさまざまな方法がありますが、その中でも定置網漁には「何が獲れるかわからないおもしろさ」があるといいます。もともと魚が好きで、体を動かすことも好きだった高嶋さん。いろいろな魚を見て触れられることに魅力を感じ、この仕事を選んだそうです。高嶋さんに定置網漁師としての仕事について伺いました。

―ご出身はどちらで、どんな幼少期を過ごされましたか?
平成13年、福岡県直方市に生まれました。3人きょうだいの真ん中で、姉と弟がいます。子どもの頃はやんちゃで、小学生のときはサッカーに夢中。中学に入ってからはゲームに熱中していました。
―学生時代に取り組んだことは? 今の仕事につながるようなことはありますか?
部活を頑張っていました。中学では陸上部、高校では科学研究会に所属しました。勉強も少しは力を入れましたが、進学は考えておらず、特定の職業を目指していたわけでもありません。ただ、体を動かす仕事がしたいとは思っていました。デスクワークは自分には向かないと感じていたのです。
高校3年のとき、「そろそろ仕事を探さなければ」と考え、魚が好きだったこともあって漁師に興味を持ちました。ちょうど山口県で就漁者フェアが開かれると知り、行ってみました。
―就漁者フェアに行ってみてどうでしたか?
多くのブースを回る中で、特に興味を持ったのが定置網と大型巻網でした。それで、両方を体験してみました。大型巻網は沖合漁業の一つで、光を発して魚を集める灯船(とうせん)と網が積んである大きな本船が、大きな網を張って魚を囲い込み大量に捕獲する漁業です。力仕事が多く、一度出ると12時間以上海にいることもあり、定置網と比べると海にいる時間が長いです。漁獲した魚は運搬船に積んで港へ送ります。本船では魚を獲るだけで、選んだりはしなくて、定置網と比べると、目の前で魚を見たり触れたりできないし、魚の種類もアジとサバだけを獲ると決まっていました。
一方、定置網漁は獲れる魚種が季節によって変わり、実際に魚を見て触れられる魅力があります。それで、最終的に定置網を選びました。

―魚がお好きとのことですが、一番おいしいと思う魚は?
サーモンです。ここら辺では獲れませんし釣ったことはないですが(笑)。
―高校卒業後すぐに漁師になったのですか?
正確には、高校を卒業する前の3月からこちらにきて船に乗り、卒業式の時だけ福岡に戻って卒業証書を受け取ってきました。初日は、海が大荒れの日で、ブリッジの中から仕事を見学していましたが、とてもおもしろかったです。年配の漁師さんが荒天でも淡々と働く姿に驚き、自分もがんばらんといけんなと思いました。幸い大荒れの海でも、船酔いは全然しませんでした。

―現在は一人暮らしをされているのですか?
はい。漁協に手配してもらった越ケ浜の一軒家に住んでいます。家は、ちょっと一人で住むには広すぎますが、住み心地はとてもいいです。家事は苦戦中で、料理は惣菜頼り。魚は時々自分で料理します。地域の方々が、「頑張っているね」「長いこと続けてえらいね」と、声をかけてくださり、本当にありがたいです。
―仕事の一日の流れは?
網のメンテナンスがある日は、深夜0時に漁に出て、帰港後に自宅で2時間くらい休んで朝5時から網の手入れをします。メンテナンスがない日は、漁の後に獲れた魚を料理して食べながら一杯やって語り合う時間があります。

―仕事の一年の流れは?
市場が休みの日曜日や祝日は休漁ですが、それ以外は基本的に毎日漁に出ます。冬は強風で出られないこともありますが、この地域は島に囲まれて波が穏やかなので、他の船が休む日でも出漁できることが多いです。時には漁に出たものの作業ができない日もありますが、定置網は他の漁に比べて安全だと思います。

―定置網漁の仕事で、やりがいやおもしろさを感じるのはどんなときですか?
やはり大漁のときです。ブリが一晩で数千本獲れることもあり、一昨年は4,000〜5,000本ほど獲れました。年始には100キロ超えのクロマグロが20本獲れたことがあり、その中には最大260キロのものもありました。写真もあります。1〜2年に一回くらいそういうことがありますね。
クジラの子どもがかかってしまったこともありました。長さ4.5メートルほどで、哺乳類なので、ほかの魚とは違って、供養したり、検査したりしなくてはいけません。そして、港についてからが大変です。皮、赤身…など部位に分けて、自分たちで解体しなくてはいけないのです。慣れていないのもあって一体で2時間以上かかってしまい、ヘトヘトになりました。

定置網で獲れた260キロのマグロ
―定置網で獲れる魚の中で、どの魚が一番オススメですか?
マグロですね。クロマグロ。ここら辺でよく売っているヨコワマグロはクロマグロの稚魚です。マグロは成長によって名前が変わり、稚魚はヨコワ、さらに大きくなるとヒッサゲ、そしてクロマグロと呼ばれます。
地方によって呼び方は色々ありますが、ブリも、ワカナ(ヤズ)→メジ→ブリと成長とともに変わります。
新鮮なマグロの味は、脂も違うし、もう絶品ですよ。回転寿司も好きですが、やはり定置網で獲れた魚の刺身は別物ですね。
―船の運転ができるようになったのはいつですか?
2年目に「そろそろ船舶免許を取ってはどうか」と勧められ、免許取得にかかる費用の補助を受けて一級小型船舶免許を取得しました。今は自分の船もあります。漁協から紹介してもらって、船を手放したい人から譲っていただいたものを使っています。

―船長として心がけていることは?
安全第一です。クレーンを使ったりするときは、危険な作業なので、常に気を引き締めて行っています。
―これまでを振り返っていかがですか?
最初の2年ほどは仕事を覚えるのに必死でした。同世代がいなかったため気軽に質問することができませんでした。あと、方言がわからなくて……。聞き返しても説明がわからなかったり、やり取りに手間取ったりしたこともあります。漁業用語にも苦労しました。
2年目の途中から同い年の後輩が入り、教え合う中で仕事にも慣れ、3年目からはバリバリやっていけるようになりました。その後輩は1年で貨物船に転職しましたが、ちょうどその頃に定置網の船と網が新しくなり、自分と漁労長*1、機関長*2を中心に新しい方法を覚えていきました。昔のやり方は人力に頼る要素が大きかったのですが、今は力作業も減り、かなり楽になりました。
*1 漁労長:船の業務責任者で、作業やスケジュールを決定するリーダー
*2 機関長:エンジンなど船の機関部を管理する責任者
―これからチャレンジしてみたいことは何ですか?
機関長の後継者がいないので、その技術をしっかり学びたいです。また、自分の船で一本釣り漁にも挑戦し、収入の柱を増やしていきたいと思っています。

貴重なお話をありがとうございました! 大漁の定置網漁船を思い浮かべて、ワクワクしました。これからどんどん経験を積んで、ご活躍を期待しています。

基本情報
| 会社名又は個人名 | 山口県漁業協同組合 越ヶ浜支店 |
|---|---|
| 住所 | 山口県萩市大字椿東6446-5 |
| 電話番号 | 0838-25-0231 |
| URL | https://www.jf-ymg.or.jp/about/store.html |
| 販売場所 | 道の駅萩しーまーと、山口県内外のスーパー等 |
