萩のつくり手 <第26回>
「須川農園」須川 裕斗(すがわ ゆうと)さん、真由美(まゆみ)さん
山口県と島根県との県境に位置する萩市田万川地域・小川地区出身の須川 裕斗さん。真由美さんとともに夫婦で新規就農し、人や環境に配慮した農業をモットーに須川農園を創業されました。看板のイチゴ(章姫・紅ほっぺ等)は評判を呼び、豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」の朝食に採用されています。やわらかな雰囲気の裕斗さん、真由美さんご夫妻にお話を伺いました。
−お二人の出身はどちらですか?
私の出身は小川地区です。妻は高知県出身で、妻とは大学時代からの付き合いです。妻は、大学卒業後に高知県のフリースクールで教育の仕事に就いた後、結婚を機に萩に来ました。
−須川農園は、いつ創業されたのでしょうか? 代々、農業をされていたのですか?
新規就農の認定をいただいたのが、令和元年(2019年)の12月で、本格的にやりだしたのは、そこからです。それまでは、社会福祉法人E.G.Fで、農場長のような形で10年ほど農業に携わっていました。私の両親は農家というより、本業のかたわらで米作りをしている感じでした。あちこちにある小さな田、合わせて1町5反ほどで、米を作っていました。父は測量の会社を経営しており、祖父は林業など色々な仕事をしていました。
社会福祉法人E.G.Fについて詳しくは、
⇒つくり手/やるき・のんき・こんきが合言葉 ! 「EASY GOING FARM(のんきな農場)」 野稲 泰二(のいね たいじ)さん
をご覧ください。
−どのような幼少期を過ごされたのですか?
小学校、中学校は小川地区で過ごしました。高校からは島根県立益田産業高校(2008年 閉校)へ進学し、生物生産工学科で、農業やバイオテクノロジーなどを専門に学びました。高校からは実家を出て寮生活です。大学は、宮崎県にある南九州大学の園芸学部に進みました。学生時代、勉強はあまりせず、野球部に入って部活にあけくれていましたね。大学では軽音楽をやっていました。
−子どもの頃は、農業の手伝いなどをされていたのでしょうか?
はい。当時、稲刈りのあと、はぜかけをしていましたが、その手伝いをしていました。E.G.Fでも、はぜかけをして米作りをしていました。
※はぜかけ・・・「はぜ」と呼ばれる稲木に、刈り取った稲を逆さにかけ天日で干すことで、藁の栄養分や甘味が米粒に集約されると言われています。
―ご兄弟はいらっしゃいますか?
兄と妹がいます。兄は山口市で教師をしています。妹は一度、大阪で就職しましたが、Uターンしました。
−大学を卒業して、萩に帰られてから、故郷の印象はどうでしたか?
現在(2024年2月)38歳なのですが、やはり、若い人がどんどん少なくなっているのを感じます。私が小川小学校にいた頃は、同級生が15人くらいいましたが、現在は全校で15人くらいです。
―なぜ創業することにしたのか、経緯を教えてください。
大学卒業後、E.G.Fで働いているときから、この先も農業を続けていきたいし、いずれは自分でやりたいという思いはずっとありました。E.G.F時代に結婚し11歳、8歳、6歳の3人の子どもがいるのですが、シンプルに子どもたちが喜ぶものを作りたいなと思い、10年目の節目で独立することにしました。子どもたちはイチゴが大好きで、イチゴを植えたり、選果したり、パッケージシールを貼ったりする手伝いをしてくれることもあります。
―独立して、どうでしたか?
昨年はイチゴに病気が蔓延して全滅してしまったことがあり、やはり、毎月決まった給料がいただけるサラリーマンのときとは違った大変さがあり、経営の厳しさを感じています。
―どれくらいの規模で生産されていますか?
現在、栽培のためのビニールハウスが10棟、苗用が4棟あります。ネギの栽培など露地が1町。米もやるようになって、田が2町ほどです。働き手は、夫婦2人とパートの女性3人でやっています。パートの従業員は、近所の方や子どもを通じて知り合ったママ友、父の会社を引退したベテランもいます。
―生産している物やそのこだわり、特徴を教えてください。
イチゴやネギ、トマト、ナスなどを出荷しています。それぞれ食べられる時期は、イチゴだと12月から5月ごろ。ネギが10月から2月ごろまで。トマトやナスは6月から8月ごろまでとなります。
須川農園の基本的な信念としては、できるだけ人と環境に配慮することを大切にしています。日本は農薬大国と言われていて、イチゴは一般的なやり方だと、かなりの農薬が必要とされているのですが、うちでは標準よりもかなり少ない状態で栽培できていると思います。例えば、イチゴには、夜闇に紫外線ライトを当てています。そうすることで、殺菌効果や防虫効果があり、農薬を減らすことができます。また。ビニールハウスでは、石油を燃料とする暖房は使っていません。電気ヒーターで最低限の温度だけ確保し、CO₂を出さないように配慮して栽培しています。結果として、ゆっくりと成長し、味ものりやすくなっているようです。
白ネギも、2年間農薬は全く使わずに栽培しています。昨年は肥料も使わずに作ることができました。今後、エコファーマー認定の取得も進めていくつもりです。それと、野菜や果物は冷蔵車で運び、当たり前のことですが、新鮮なうちに出荷することは心がけています。
―人と環境に配慮した農業の技術は、どこで学ばれているのでしょうか?
本を読んだり、人に話を聞いたりして研究しています。前職のE.G.Fでも安全に配慮した農業を行っており、40種類ほどの野菜や果物を作っていました。そこで、さまざまな経験をし、根幹はE.G.Fで学んだことが大きかったです。
E.G.Fは、平成27年(2015年)に農林水産省の第2回「ディスカバー農山漁村の宝」アワード・プロデュース賞に選ばれました。それからは、大学の研究者や農業者などが、全国から視察に訪れるようになりました。そこでの人脈も大きかったです。逆にこちらから見に行ったりさせてもらいました。
一番大きな影響を受けたのは、広島県のアグリ・アライアンスです。アグリ・アライアンスは、大学や企業と産学官農連携し、徹底した健全な土づくりを行い、通常より栄養価の高い野菜を生産し、6次産業化の取り組みなども注目されています。販路もすごくて、国際線ファーストクラスの食事に採用され、海外への輸出も行っています。そういった先進農業者から学ぶところは多かったです。
―年間の流れはどのような感じですか?
イチゴは年間を通してやることがあります。栽培のハウスでは、9月に苗を植え、管理作業が始まり、12月から5月まで収穫します。その後、片付けをして次のシーズンに向けて準備していきます。イチゴの苗を作る作業は3月から9月まで、ずっとやっています。イチゴを栽培していると、休みの日はありません。白ネギは、2月に種まきをし、4月中旬に植え付けしたら、その後は土寄せ作業があります。
―仕事の1日の流れはどのような感じですか?
朝の就業開始は8時半からになります。パートさんたちは、午前中にネギの皮むきと袋詰めをしてもらい、午後から、イチゴの管理作業をしてもらっています。
―夫婦それぞれの役割分担は、どうされていますか?
二人で話し合って、決めています。妻は学生時代カヌーをやっていて、元国体選手だったこともあり、体育会系です。草刈りから力仕事まで、なんでもやっています。特に大きかったのは、経費を抑えるために、夫婦とパートさんだけでビニールハウスを建てたことです。別の地域の引退される農家から、ビニールハウスを譲っていただいたのですが、ビニールハウスを崩して運んできて、自分たちで建てました。ハウスのパイプはかなり重いのですが、妻やパートの女性たちみんなが頑張って持ってくれました。ビニールハウスを建て、農業の経験を積むなかで、本当に鍛えられて、ずいぶん動けるようになったと思います。
―真由美さんは「やまぐち農林漁業ステキ女子」に入られていますね。どのような活動をされているのでしょうか?
農業に携わる女子が集まって、テーマを決めて色々なことをしています。農業女子という共通点がある者同士で、悩みを分かち合えるところがいいところだと思います。例えば、「夫の両親と同居し、家でも仕事でもずっと一緒にいるのは、しんどいよね」という話題になると、それに共感する声も出ますが、別の人からは、「それがいいんだよ」という声もあったりして、色々な感じ方、考え方を共有できます。ステキ女子会で知り合って仲良くなった方に、悩み相談することもあります。
―農業の大変なところは何ですか?
自然相手にしていると、天候に左右されることが多く大変です。夏場、イチゴが高温障害を起こしてしまったこともありました。10月の気温が暑すぎると花が咲きにくくなり、収穫が遅くなったりもします。高温で困っている農家はかなり多いと思います。それと、なかなか雨が降らないのに降る時は集中して一気に降ったりするので、畑が田んぼのような状態になってしまい、一昨年には、ネギが根腐れしてしまったこともあります。複合型で色々な作物を作っているので、まだ、経営的にはよかったと思います。
―農業の魅力は何ですか?
いいものができれば、安心します。まちの中で、須川農園のイチゴを食べて知ってくれている人に出会ったりして、とてもうれしく思っています。イチゴは、豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」の朝食に採用してもらっており、そのお客様から購入したいとお問い合わせが来ることもあり、ありがたい限りです。イチゴは土壌診断をして土づくりをし、化成肥料は使わず、虫がつきやすい動物性堆肥も極力避けて有機の成分だけで作っています。土づくりへのこだわりが、甘くておいしいイチゴの味につながっていることを実感し、やりがいを感じます。
―これからチャレンジしたいことは何ですか?
ありがたいことに、販路には困っていない状況です。お客さまや販売店の方が口コミで広めてくださったおかげなのかなと思います。まだ、失敗が多いですが、作れば売れるので、確実に収穫量を増やして、多くの方に食べていただけるようにしたいです。将来的な目標ですが、E.G.Fで障がい者の方と一緒に農業をしてきたように、自分も、この先障がい者の方を雇用できるようになりたいとも思っています。
試食させていただいたイチゴが、びっくりするほどおいしくてファンになりました。
これからも、須川農園のイチゴや野菜を楽しみにしています。がんばってください!
基本情報
会社名又は個人名 | 須川農園 |
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住所 | |
電話番号 | 080-5618-9678 |
URL | https://www.facebook.com/yamaguchi.nouringyogyou.sutekijoshi |
販売場所 | 道の駅ゆとりパークたまがわ、スーパーマーケット「キヌヤ」(須佐店・江崎店)、益田市内の直売所・スーパー |