萩のつくり手 <第27回>
「松田農園」松田 由美子(まつだ ゆみこ)さん
萩市むつみ地域の千石台(せんごくだい)は、黒ぼく土壌と呼ばれる黒い土の畑が広がっています。両親の代から、大根や人参、スイカなどの栽培に取り組み、農業委員や消防団、移住サポーターなど、地域の大切な役割も担われている、松田農園の松田 由美子さんにお話を伺いました。
―出身はどちらですか?
生まれも育ちもむつみ地域です。三人きょうだいの一番上、長女です。
小学校、中学校とむつみ地域で、高校からは奈古(なご)高校へ進み、下宿しました。
―どのような子ども時代を過ごされたのですか?
おとなしい性格でしたが、小学生の頃は、毎日のように外遊びをしていました。帰宅したら、すぐにカバンを置いて遊びに出かけていましたね。熱中していたことといえば、小学校から高校までバレーボールをしていました。ひたすらバレーに明け暮れた日々でしたが、忍耐力がつき、がんばりがきくようになったのは、バレーをやってきたおかげだと思います。体力はあると思います。
―高校卒業後は、どのような進路に進まれたのですか?
奈古高校では、農業ではなく生活科学の被服を専攻していたのですが、和裁を学びたいと思い、広島の専門学校へ進学しました。和裁士になりたいと思っていたのですが、現実は、あまりにも納期が厳しくて技術が追いついていかず、諦めました。専門学校を卒業してからは、萩の呉服店に1年半ほど勤務しました。その後、結婚してから出産するまでは、金物屋さんで働きました。
―今でも、服や着物を作ることはあるのですか?
昔から服を作るのは好きで、自分の服を作ったり、子どもが生まれてからは子どもの服を作ったりしていました。今は、時間が取れなくて作れていません。またミシンを買い替えて、がんばってみたいなという気持ちはあります。ちなみに着物の仕立てからは遠のいています。
―農業を始めたきっかけを教えてください。
もう、20年近く前のことになりますが、離婚して子どもと2人で実家に戻ったのがきっかけです。農業を両親2人でやっていたので、私も手伝おうと思いました。最初は、カボチャの皿を集めたり、草取りをしたり、ということから始めました。
※カボチャの皿…土と直接触れて変色してしまうのを防ぐため、カボチャと土の間にひいてある皿のこと。
―地元に帰ってきてよかったことはありますか?
地域のみなさんは、私のことを昔からよく知っているので、子どものことも気にかけてくださって、子育てしやすい環境でした。とにかく地域の人があたたかいです。
―松田農園創業の時期や経緯を教えてください。
80年ほど前に、私の祖父母が、戦後の引きあげの第一弾で、この千石台に入植し、何もないところから開拓したのがスタートです。重機も何もない時代に、鍬(くわ)や鋤(すき)だけで開墾したそうです。その後、両親も祖父母のあとを継ぎました。
子どもの頃は、大根を植える手伝いなど、日々、当たり前に農作業もしていました。祖父母は、大根を作るまでは、白菜、里芋、たくあんなど色々な物を作り試行錯誤していたそうですが、結局大根をメインに作ることに落ち着いたようです。子どもの頃は、両親が朝早くからずっと働いている姿を見てきて、キツそうだし、絶対に農業だけはやらないと思っていました。
―生産しているものとその特徴を教えてください。
耕作面積としては、4ヘクタールほどで、主に大根を作っています。ほかに、ニンジンやスイカも作っています。千石台の土は、火山灰土の黒ボク土で、保水力も排水力もあるのが特徴です。標高が高いので寒暖差もあり、大根はもちろん、全ての野菜が非常に甘みがあっておいしくできます。
―千石台には、何軒の農家がいるのでしょうか?
現在、14戸の組合員がいます。この10年の間に、若い世代の方々が5組Uターンで帰って来て、主に大根を作り農業をしています。
千石台のつくり手については
⇒つくり手/千石台(せんごくだい)のスイカ栽培 「みつい農園」 光井 優(みつい ゆう)さん
⇒つくり手/火山灰由来の黒ボク土で、甘くやわらかい千石台(せんごくだい)だいこんを栽培する「平野ファーム」 平野 喜代治(ひらの きよじ)さん
をご覧ください。
―こだわりや大切にしていることは何ですか?
より美味しいものを食べてもらいたい、だから手入れをきちんとして、いいものを出したいと思っています。うちは、化成肥料を少なくして、堆肥をしっかり入れて土作りをしています。堆肥で地力を上げることで、暑さにもヘタらないし、味も美味しくなるようです。むつみ地域では、個人で牛を飼っているおうちが何軒かあり、そこの牛ふん堆肥を使っています。
※化成肥料…2種類以上の原料を混ぜた「配合肥料」を、更に化学的または物理的工程を経て粒状に加工(造粒)された肥料のこと。
―これからチャレンジしてみたいことは?
つい最近、大型特殊免許(農耕車限定)を取り、フォークリフトの専門講習も受けました。これまで農機の運転を担ってきた父が高齢になったので、何かあったときには、私がやらなくてはと思って取りました。これからは、フォークリフトやトラクターの運転にも挑戦していきます。千石台の若い世代の人たちの中には、ケールやキャベツなどのいろんな作物にチャレンジされている方もいます。松田農園でも、見合うものがあればやってみたいと思います。
―仕事の1日の流れ、年間の流れはどのような感じですか?
大根の種まきが始まったら、2ヶ月くらい、ずっとやります。1日中種まきの日もあれば、1日ずっと草取りの日もあります。夏場は暑いので、5時か6時から作業を始め、昼間は休み、夕方からまたやるというような感じになります。
5月中旬から8月、9月中旬から12月くらいまでの大根の出荷時期には、収穫は夜の仕事になります。夜の7時か8時くらいに収穫し、日付が変わらないうちに帰れればいいかなという感じです。朝になったら畑の片付けをして……という感じで忙しいときは、ずっと畑にいます。昼休みの間に、直売所へ持っていくこともありますね。
3月は、ニンジンの出荷と大根の種まき。4月いっぱいまで大根の種まきがあります。大根は、60日ぐらいで出来ますが、ずらして種まきをしないと、一気には収穫できないので、長期に渡って収穫できるように計画して種まきをしていきます。
ニンジンは、5月くらいから種まきをして、9月ぐらいから出荷していきます。
スイカは、5月の連休くらいから苗を植え、7月の終わりからお盆過ぎぐらいまでが出荷期間です。
ニンジンやスイカは、「アトラス萩店」やJAファーマーズマーケット「ふれあいらんど萩」に出荷しています。出荷組合がある大根については、JAを通して、県内をはじめ広島や福岡の市場へと旅立っていきます。
―「松田農園」のロゴマークは、どのようにして生まれたのですか?
自分でデザインしました。JAファーマーズマーケット「ふれあいらんど萩」でニンジンを販売することをきっかけに作りました。千石台をアピールして、むつみ地域の名物である、ひまわりをイメージしたデザインです。ニンジンの色が引き立つように青色にしました。
―「やまぐち農林漁業ステキ女子」に入られていますね。どんな活動をされているのですか?
発足当時から、初期のメンバーとして入っています。もう6〜7年になります。「きれいに、輝き、かしこく、かせぐ」というコンセプトがあり、最近の活動としては、県内の柿農家に視察に行ったり、SNSなどに載せる写真の撮り方を学んだり、萩ふるさと祭りに出店したりしました。女性は家のことがあると、忙しくて出席が難しい方もいらっしゃいますが、とても大切な集まりです。
女子の集まりということで、この会をきっかけに出会うことができて、素敵なつながりが生まれ、すごく楽しい場となっています。
詳しくは、松田由美子さんが出演する
⇒【地域リーダー編】「やまぐち農林漁業ステキ女子」に聞く地域リーダーの仕事とは?
をご覧ください。
―農業委員を務められていますが、どのようなことをされているのですか?
農地を守ることがメインで、年に1回、農地パトロールをし、耕作放棄地が出ないように対策を考え、月に1回の定例総会に出席するのが主な仕事です。最初は、私が引き受けていいかどうか迷いましたが、勉強するつもりで引き受けました。もう、10年目になりまして、この度、会長職務代理者という役をいただきました。
―女性の農業委員は、どれくらいいるのですか?
萩は、農業委員19人中4人、農地利用最適化推進委員25人中1人と、全44人中5人で女性は1割程度です。
―ほかに担っている地域の役割はありますか?
6〜7年ほど移住サポーターをしています。移住サポーターは、地域の方と移住者をつなげる役割をしていて、移住を検討している人が家を見にこられる際の内見の立ち合いや、地域の人へのあいさつ回りに同行したりします。それと、消防団もしています。むつみ地域は、9人の女性消防団員がいまして、火事現場で主に交通整理や住民の方に寄り添ってあげるとか、火災予防運動中には独居老人宅を回ったり、心肺蘇生法を指導できる応急手当指導員の資格を取ったりもしました。こちらも13〜4年やっています。
―農業の魅力は何ですか?
時間に追われていますが、充実感がすごくあります。作物ができる過程を見るのも楽しいですし、いいものができて収穫したときは、喜びがあります。子どもの頃は、農業なんて絶対にやらないと思っていたけれど、やってみたら、楽しくて嫌いじゃなかったですね。体はキツいのですが、精神面では充実感がとてもあります。
両親は、80歳近いですが元気です。農業されている方は年齢を重ねても、それを感じさせないくらい元気な方が多いです。太陽の光を浴びて、自然のなかでいい空気を吸って、汗を流すことが元気につながっていると思います。
―大変なところは、どんなところですか?
物価が上がり、資材代が上がっていますが、生産物の値段はほとんど変わっていません。その部分は全面的に厳しいです。それと、天候に左右されて、計画通りに作物が出来ないこともあるので、それは本当に大変です。
―「儲かる農業」の仕組みづくりは?
周囲で色々と話を聞くと、ものづくりは得意でも、営業が苦手な人が多い気がします。売り場所のことを考え、販路を開拓していく力が必要だと思います。
―これから農業を始める方へのアドバイスをお願いします。
農業は、厳しい状況ですが、やりがいはすごくあります。国の食を担うのは大切な仕事ですし、農業なくして国は成り立たないと思います。農業を目指す方とは、私もどんどん交流していきたいですし、本当に頑張ってほしいと思います。
私は、農業に取り組む若い世代の方々と交流することを大切にしています。以前、萩市長さんが地域を回って意見を聞く場を設けられたときに、若い農業者との交流会をして欲しいとお願いしたところ、すぐに実現しました。萩市全体の大きな農業者の輪ができ、いつでも声をかけられるようになりました。コロナ禍を経て、そのような機会が減ってしまいましたが、農業者同士のつながりは、とても大切だと考えています。
―松田さんのご両親のように年を重ねても、現役で働くことができ、元気でいられて、充実感とやりがいを感じられる農業という仕事は、とてもすばらしいですね。これからも、地域の大切な役割を担いながら、がんばってください!
基本情報
会社名又は個人名 | 松田農園 |
---|---|
住所 | 〒758-0305 山口県萩市吉部下3799-84 |
電話番号 | |
URL | https://www.facebook.com/yamaguchi.nouringyogyou.sutekijoshi |
販売場所 | アトラス萩店、JAファーマーズマーケットふれあいらんど萩など |